■TOP

クリエ PEG-VZ90 開発者 スペシャルインタビュー

クリエ「PEG-VZ90」の発表後、ソニーさんのご厚意で発売前に実機をお借りして各種レビューを公開しましたが、実は貸し出し機の返却の際にソニー側の計らいでVZ90の商品企画を担当したソニーの後藤庸造さんと意見交換をする機会を設けていただきました。その模様について、ソニーさんが掲載許可をくださいましたので、スペシャルインタビューとして公開します。色々な意味で興味深い内容になっています。クリエユーザーならずともPDAに興味のある方は是非ご一読ください。

終始真摯に熱意あるコメントをくださった後藤さんと、このような機会を設けてくださったソニーマーケティングさんにこの場を借りて御礼申し上げます。なお、意見交換会そのものは2004年9月17日に行われましたが、色々あって公開が遅れてしまいましたことをお詫びいたします

SPA ──PEG-VZ90の開発意図についてお聞かせください。
後藤 クリエがもともと持っている要素を大きく3つ、もともとメインである「手帳」というエリアと、クリエで特に広げていきたいと考えていた「AV」のエリアと、コミュニケーションをどんどん図っていくという「ネットワーク」のエリアに分けて考えています。もちろん、それぞれ全部持っていて良いのですけども、どこに力点を置くのかをモデルごとにより明確にすることでクリエとしてのお客様の幅を広げ、結果的にマーケットを広げていけるのではないかと。

PEG-UX50とPEG-TJ25というのは、非常にある面わかりやすくて、PEG-UX50はネットワークモデルですし、TJ25はベーシックな手帳モデルです。PEG-TH55はTJ25を拡張して、さらに手帳の領域を強くしましたというモデルですが、せっかく今までやってきたAVのエリアをあまり改善できなかったという思いがありまして…。そこに有機ELパネルの話があり、値段がもともと高いことはわかっていたのですが、ひとつ挑戦してみようということで開発が始まりました。
SPA ──ネット上での賛否両論の反応に対して、後藤さんご自身はどう感じていらっしゃいますか?
後藤 お客様には、それぞれのクリエに対する思い入れがあると思います。今までのクリエはそういう意味では、クリエのお客様全員に対して「クリエの新製品はこれです!」と言っていたのでわかりやすかったと思います。一方、PEG-VZ90のようにAVに振ってしまうと、ソニーとしては得意な領域ではありますが、クリエのお客様全員に訴求できる領域ではないと認識してますので、その辺りで賛否両論の反応が出たかなと受け止めています。
どうですか、お触りになってみての感想は?
SPA ──初見で、これはもう小さいエアボードとかTVなのではないか…みたいな印象を受けました。AVビューアーを目指して、デザインからコンセプトから全部そこに集約させたのだろう…みたいなことはすごく良くわかりました。そして、「PDA=クリエ」のような既成概念のようなものを壊すみたいなメッセージも暗に伝わってくるものではありました。
後藤 「手帳」「AV」「コミュニケーション」を統合して手のひらに持ち出す…クリエとは何?という質問に対するこの考え方は、クリエを発売した当初からあったものです。過去からも、クリエ=PDAではなくて、その概念をどんどん取り壊すというようなことを言ってきたと思います。あまり枠にとらわれると、マーケット自体殺してしまう可能性さえあるからです。どこまでPDAの枠を壊すかは非常に微妙ですが、むしろ、お客様と一緒にマーケット自体を育てていかないといけないと考えているのです。クリエっていうブランディングの難しさというのは確かにあります。ソニーの携帯端末を全部クリエと呼ぶというわけにもいきませんし。
SPA ──そこで問題になってくるのが、本当にこれにPalm OSが必要だったのか、というところだと思うのですが、その辺のお考えをお聞かせくださいますか?
後藤 確かにそういう考え方もあるかもしれませんが、PEG-VZ90は、Palm OSを搭載したビューアーとして、伸ばせる部分を伸ばしたものです。AVビューアーやPDAなどを2個も3個もバラバラ持って、どんどん大きく重くなるというよりは、一緒にできる部分は一緒にしていきたいということです。結果的には、ある程度の大きさになってしまいましたけど、一体型のタイプでPalm OSを活かしながら、ビューアーや次の展開の可能性がお見せできるといいと考えました。

Palm OSを使ったからには逆にサクサク感であるとか、そういったところは残していきたい。Palmのシンプル・イズ・ベストと同様の思想ですが、ポータブルなものを本当にすぐに取り出せるかってところが重要だろうと。結構その本質部分っていうのが、仮にAVビューアーの部分を強化したとしても、実はPalm OSとしてはあまり変わっていません。逆にその良さを引き出せるようにしたいと考えました。
SPA ──今回AVに特化するということで、逆にPalm OS自体が足かせになってしまったようなところは無いのでしょうか?
後藤 外部ストレージ容量は確かに足かせとも言えます。複数のメモリカードへのアクセスをソニーがオリジナルに拡張したように独自の方法を検討することもあります。ただ、今回のPEG-VZ90においては、さくさく動くというPalmのOSの良さの部分を引き出すことを考えました。
SPA ──CFメモリとメモリースティックも2GBという容量の制限がありますが、その辺はもうやむなしという感じですか?
後藤 やはりソニーでオリジナルに拡張して、2GBの制限を越えるということも不可能ではないですが、その分の投資対効果といいますか、このモデルにそれが適合したとしても、他のタイプのクリエに本当に4GB以上のドライブが本当に必要かと言われるとかなり疑問なところがあります。繰り返しになりますが、PEG-VZ90については、Palm OSのマシンならではの軽快な操作感であるとか、そういった得意な部分をよりAVの方に伸ばしていきたいと考えました。
SPA ──CFメモリーカードとメモリースティックの使い分けをどうすべきか、ソニーさんとしてイメージされていますか?
後藤 コンパクトフラッシュにしても、あるいは他のスロットにしても、より多くのお客様をやっぱりソニーの領域に取り込んでくるってことがより大事なんじゃないかなと思っています。違うデバイスを持つことによって、クリエが迎え入れてあげられるお客様の領域を広げたいと…。 特に意識していたのはデジタル一眼レフのお客様です。デジタル一眼レフのお客様が持っているCFメモリーカードをそのままPEG-VZ90に装着すればビューアーになる。撮影してCFメモリカードがいっぱいになってしまったというときにメモリースティックにコピーするとか、内蔵メディアに避難するとかという使い方もできますので結構利便性が高いと思います。
SPA ──では、スロットの使い方はユーザー側に任せるということですね。
後藤 そうですね。それはもう拡張性の部分ですので、まさにその部分はお客様、あるいはサードパーティさんもそうかもしれませんけども、そういった方々にどんどんお使いいただくと…。CFスロットであればスロットサイズが大きいので汎用性は高いですし、スロットの部品価格も安いということもあります。もちろんメモリースティックならではの良さというのもありますけれども、コンパクトフラッシュのメディアをお使いになっていらっしゃる方にも普通にお使いいただけると。
SPA ──ハードディスク(HDD)搭載の様々なデバイスが花盛りで、ソニーさんも別な部署で「HMP-A1」などの製品を市場に投入しています。そういう流れの中でクリエにHDDを載せ(られ)ない理由とかポリシーがあるのでしょうか?
後藤 20GBのハードディスクを搭載したとしても、それにMPEG2の重たい動画を保存すると収録時間としてはそれほどの時間が望めるわけではありません。8Mbps対768kbpsで比較すると、10倍ほど違うわけです。かつメモリのほうがアクセスも早い。ハードディスクではどうしてもメモリほどの処理速度は実現できません。先ほどのPalmのサクサク感という話とも関係してくるわけです。CFカードとメモリースティックの最大サイズを使用した場合には合計4GBまでサポートできますし、何枚か抜き差しすればもっと拡張することも可能ですので、メモリーカードで考えた方がいいだろうと考えました。

また、もう一つのポイントは消費電力です。マイクロドライブ(CFサイズのハードディスクの商品名)を使えば体積的には増えないと思われがちですが、実はCFメモリーカードやメモリースティックを使うよりはるかにピークの消費電力が高くなりますので、その分電源を強化しなくてはなりません。結局はバッテリ容量を増やす必要があり、もっと大きなサイズになってしまいます。そうすると、あまりにもバランスを欠くことになって、商品性を損ねてしまうということで…。ハードディスクがついていて、それを手軽に持って行きたいというニーズにはHMP-A1という製品もありますので、そこにわざわざぶつける必要もないと考えたのです。
SPA ──私はかねがねサイトを通じてソニーさんにメッセージを投げかけていまして、先だって出たHDD搭載のネットワークウォークマンもそうなんですけど、パソコンとの連携がどうしても取っつきにくいというか…。自分はあまり技術的なことがわからなくて、単純にこういう小さいガジェットが好きなだけですから、もっと手軽に動画を持ち歩くためのツールをハード単体だけでなく、ソフトウェアを含めたソリューションとして提供して欲しいと言っていたのですけど…。
今回は「ImageConverter2」がバンドルされていますが、「Do VAIO」とか新しい「Giga Pocket」に対応した製品を持っていないもので、自分にはその能力が良くわからないんです。それと、今回「CLIE MP4」という新しいフォーマットを採用した点など、お話しいただける範囲でお願いします。
後藤 実際、PEG-VZ90の動画機能を手軽に使うには、付属ソフトとの連携性とか、動作保証がとれていることもあって、バイオとの組み合わせをお勧めすることになります。ただし、VZ90をお買い上げになるお客様のうち、バイオを持っている方が大多数とは思っていません。逆にバイオを持っていないお客様にどれくらい使えるソフトになるかっていうのが問題だという認識は我々も持っています。そういう観点からも、ImageConverter2ではバイオ以外でのPCでの汎用性を上げるべく改善しました。すでにテレビ放送をパソコンで録画するということをバイオ以外のPCでやっていらっしゃるお客様については、コンバートができる可能性がより高まっていると思います。Windows Media Videoを扱うようにしたのはどちらかというとバイオのお客様よりもバイオ以外のPCのお客様に嬉しい機能のはずです。でも、どんなMPEG-2でも OKです、とも言えないんですね。お客様それぞれのPCの環境が違いますので、MPEG-2ならどんな動画ファイルでも大丈夫とはいえないのは事実です。

今回、標準の動画ファイルをCLIE MP4形式にした一番の理由というのは、単純にPCでの再生互換性が上がるということです。モバイルムービー機器向けQuickTime形式自体も、QuickTimeプレイヤーさえあれば再生できるというメリットがありますが、ソニー独自の拡張子が付けられているということもあり、QuickTime Playerがそのままでは認識をしないため、問い合わせが多く入っていました。一方、「.mp4」の拡張子が付いていれば、多くのPCソフトで再生でき、より汎用性が高いということでCLIE MP4形式を採用しました。エンコード方式自体は、MPEG-4とAACで変わっていないので、実はQuickTime形式と画質も音質もまったく変わらない。ただ、ファイルのくくり方が違いますということで、技術的なレベルはあんまり変わらないんですが、より汎用性があるファイルフォーマットの方を使うことにしました。

ただし、今までのクリエのお客様を無視してQuickTime形式に対応しないのでは、非常に大きな問題になりますので、QuickTime形式のファイルの再生互換性を残しました。今まで楽しんでこられた方もいらっしゃると思いますので、その互換性は切らないでやっているということです。
SPA ──すでに周辺機器として販売されている“メモリースティック”ビデオレコーダー(PEGA-VR100K)を使うとQuickTime(モバイルムービー)の形式でテレビ番組を録画して楽しめるわけですが、ディスコン(製造中止)になったのでしょうか?もったいないと思ったんですけど…。
後藤 そうですね。PEGA-VR100Kがディスコンになったのは大変残念なことですが、ちょっと早すぎた機械だったかも知れないと個人的には思います。VR100Kのお客様のアンケートなど見ますと、非常に良くご活用いただいているんですよ。実はハードディスクを載せた場合のメリットデメリットの話とも関連しますが、日々メモリースティックを交換しながら使えるリムーバブルメディアならではのメリットって実はかなり大きいと思っています。録画している間はもちろん、ファイルコピーの時もクリエ本体を拘束されませんから…。HDDをはめ込んでしまうとすると、転送している間に本体を外すことができず、その差はすごく大きいと思っています。で、何を見るかなんですが、ニュースなどが中心になるのかなと思っていたのですが、むしろ映画とかドラマといった長編ものを旅行の時などにお使いになる方の方が多いことが分かりました。そういう意味で、VR100Kの使われ方自体がミニ・スゴ録になっているなぁということも感じます。
SPA お好きだという音楽系の方ですけど、Audioアプリケーションが随分と見た目に派手と言いますか、Coolに仕上がっているとは思うんですけど、そういったところだけでなく音楽を純粋に楽しむための機能がもう少し欲しかった気がするんですけど…。
後藤 PEG-VZ90は、有機ELディスプレイを採用したと言うところが最も大きなアドバンテージであり、どうしてもビジュアル機能に力が割かれてしまったということがあるかもしれません。オーディオプレイヤーは、画面構成の改善が中心になっているのですが、横画面になることで単純に長いタイトルが表示できることはメリットだと思います。また、これは以前からですが、他のアプリを使いながら音楽を楽しめて、かつ選曲したいときには大きな画面で曲目リストをチェックできるなどのポイントはおすすめしたいと思っています。

私が一番気になっているのは、実物をご覧になってらっしゃらない方が、大きいとかスペック的に物足りないねって言われる分にはこれはしょうがないなと思うんですけど、今回SPAさんに実際に触っていただいて、面白いと思っていただけるのか、面白いけどやっぱり高いものなのか、クリエとしてというポイントではどうなのか?などが知りたいんです。モノとしてはどうですか?面白かったですか?こういうのありだと思いましたか?
SPA ──正直、モノとしてはありだとは思いました。自分は「エアボード」を持っているんですけど、クリエ云々と言うよりもむしろそっちのノリを感じました。エアボードと同じベースステーションを共有して、これ(VZ90)で見られたらどれだけ楽しいかってちょっと思ったんです。外観的にも見るからに液晶テレビをそのまんま小さくしたイメージだったので…。それと正直、自分の中でもはやこれはクリエではないなぁと。実際、中身はPalmデバイスとして普通に使えるんですけど、もうそういう使い方をするモノではないだろうなという気がしました。
後藤 エアボードとこれとどれくらい差があるの?って言われると、実はかなり技術的には近いところに来ています。ソフトウェアとしてエアボードのように使えるものは入っていないので、今のままではできませんけども、逆にそういう使い勝手を想起していただける、ライフスタイルとして次にそういうモノが目指せるということを、PEG-VZ90のような先進的な商品で打ち出していかないとソニーの商品自体が次に進んでいかないのでは?と思っています。お客様に対してはVZ90では完全なメッセージにはならないかもしれませんが、VZ90のような商品を市場に問うことで、逆にうちのエンジニアも感化されて次のブレイクスルーに向かっていく、そういう循環を作っていかなければならないと思っています。
SPA ──そう言う意味ではチューナーを積んでしまえば…という意見もよく見かけましたけど、自分の中ではエアボード的な使い方が面白いかなと思いました。
後藤 チューナーは地上デジタルですとかそういったものが本当に来た時に活かせればいいかなと。少なくともCFスロット分くらいの拡張スペース分くらいあればそういったものを将来入れ込んでいくことができるので、逆に言うとそういったプラットフォームといいますかスタイルとして、今PEG-VZ90をやることに結構意味があると思っています。後に地上波デジタル花盛りだねとかっていうように言われてから商品を出すより、逆に先進的に、クリエのお客様ってそういうお客様が基本的に多いと思ってますので、「今すぐにはできないじゃないか」というお叱りはあえて受けるとしても、逆に次のビジョンが見えるようなモノを出したいという思いました。
SPA ──クリエの開発で培われたモノは、ひとつの遺伝子として他の製品に生き続けると考えていいわけですね。
後藤 そういうことです。今回、有機ELやる人いない?って言われた時に、もちろんバイオの担当から見ればまだサイズが小さいなということになるでしょうし、世界最大サイズでソニーの技術性を見せるんだと言われた時に携帯の担当から見ればこのパネルじゃちょっと大きすぎるよねということになります。そこで、クリエの担当としてそこに手を上げました。

この有機ELディスプレイですが、今現在お店で買えるものとして世界最大なんですよ。まだまだ先進テクノロジーで、おそらくお客様が考えてらっしゃるよりは、はるかに作るのは大変です。それは価格にも反映してしまっていますが、そういう先進デバイスをむしろクリエのお客様に真っ先にご提供したい、見ていただきたいと考えました。
SPA ──ソニースタイルの開発者インタビューに色々と書かれてましたけど、ここまでまとめあげるご苦労みたいなモノがあればお聞かせください。
後藤 PEG-VZ90は、実はクリエの中でもアウトサイダーなのです。クリエは手帳がベースです、というのが基本メッセージですし、メインロードです。VZ90を出したからっていって手帳タイプが全部なくなるというわけではないので、全然問題は無いとは思うんですが、これをクリエの仲間に入れていいのかどうかということにも、抵抗を感じる方がおられるかもしれないなと思っています。
SPA ──ユーザーを裏切る…みたいなことをソニスタのインタビューて答えてらっしゃる方もいらっしゃったので、まさにそういうものになったのかなぁと思いますが、正直、驚きと戸惑いみたいなものを自分でも隠せなかったところがあります…。ただ、じっくり触っていくうちに、ああ、こういうものなんだというのはわかりました。
後藤 アプリケーションキー4つですとか、ジョグダイヤルを継承しているとか、実はクリエとして脈々と引き継がれてきたものはそのまま引き継いでいます。クリエのDNAは確実に濃く入っていると思うんですね。過去のモデルでいただいたご要望にもいろいろお答えするように努力したつもりです。

値段がもう少し安ければ理解が得られるのかもしれませんが、そこはまだ有機ELディスプレイ1枚作るのにも非常に大変だということもあり、どうしても高い値段になってしまいます。それでもやっぱりクリエのお客様に一番最初に見てもらいたい。むしろ、一番最初に見てもらえるのはクリエのユーザー層かなと思っていました。
SPA ──ディスクジョグを採用した理由を教えてください。
後藤 ジョグは最初からディスクジョグにしたいと思っていたってところがありまして。せっかくソニーで共通資産で持っているものを使わない手はないといいますか…。むしろ、ディスクジョグって携帯電話のものに限らず非常に使い勝手のよいものだと思っています。ジョグダイヤルは今ではソニーのさまざまな商品につくようになりましたが、ディスクジョグもそういうものに育って欲しいと思っています。

遡って考えますと、もともとジョグというものはノンコンシューマのビデオの操作系としてあったわけです。それを今回のVZ90にもそれをわかりやすい形で入れたい。クリエの伝統とAVの操作性の両立っていうのを考えた時に、これがやっぱり優れたデザインかなと…。まずそれが一番の採用理由です。

さらにもうひとつ付け加えれば、クリエオーガナイザーを逆に縦型で入れたいっていう要望が設計から出まして、クリエオーガナイザーを縦でやった時に本体を90度回した時にも使い勝手が変わらないということで。90度回してというのもすごく重きを置いているところではあるんですね。
SPA ──横メインのPEG-UX50と非常に近いコンセプトですが、ベースとなる要素はほとんど同じと考えてよろしいですか?
後藤 コンセプトは違いますが、ハードウエアとしてはPEG-TH55よりもPEG-UX50に非常に近い構成になっています。95MBが内蔵メディアですけど、実は128MBのフラッシュメモリーが入ってまして…残りのエリアからシステムを読み出してますけれど、それはまったくUX50でやったことと同じです。
SPA ──UX50にあった省電力モードは今回どうなったのでしょうか?
後藤 今回搭載していないです。一番の理由は、95MBという広いエリアをユーザーエリアに全て提供したかったからということです。PEG-UX50の場合はユーザーメディアエリアを限ってしまって、あらかじめシステム用にエリアを確保していました。
SPA ──バックアップ用にということですよね?
後藤 はい、そうです。そのエリアというのがまさにダブルコピーのためのエリアですけども、PEG-VZ90ではそれも全部解放しました。お客様がご自由にお使いいただけるようにあえて解放したということです。この領域をバックアップに使いたいというお客様も当然おられるでしょうし、メディアとして使いたいという方もおられるでしょう。それはお客様にお任せしましょうと。このくらいのモデルをお買いになる方だったら、そういうメモリの管理をお願いしてもいいでしょうと考えました。
SPA ──そういう意味ではメディアランチャー以外の付属のソフトも非常にシンプルというか、かつてあったAV系のアプリでスライドジョーやフォトスタンド、フォトエディター、さらにクリエランチャーも一切無くなっているというのも、その辺の自由度といいますか、ユーザーに解放するという意味合いがあるのでしょうか?
後藤 そうです。むしろお客様が機能を付加したいとお考えになった時に、自由に使っていただけるように開放しています。今回はクリエで最大の40MBのDRAMのエリアを確保することができました。これはPocket PCで同じように40MB空いているのとは実用上のレベルが違いますので、逆にそういう部分をハイエンドのPalmデバイスとしてお使いいただけるようにはしようと。この辺は非常にシンプルなPalmライクな考え方です。
SPA ──有機ELの特性とも係わることですけど、「クリエ オーガナイザー」の画面ベースが白ですよね、これを酷使するとかなりバッテリの消費があるのではないかという疑問があるのですが…。
後藤 確かに白画面は消費電力も黒よりは高くなりますし、またディスプレイの寿命にも関わりがないとは言い切れません。ただし、ずっとオーガナイザーの画面を眺めている方は少ないでしょうから、ビデオの再生画面とは異なると考えています。
SPA ──有機ELディスプレイ採用に伴い、従来の[明るさ調整]に[色調整]が加わりましたが、その理由を教えてください。
後藤 実際のところ、有機ELは赤・緑・青がそれぞれ独立して点灯しますので、ある一定の色だけ早く減退してしまう可能性があります。例えば、同じ色の画面を出し続けたときに、青だけ早く減退してしまうとか、赤だけ減退してしまうという可能性はあります。そのバランスが崩れてきたときに、調節できるようにしています。蛍光ペンとかがわかりやすいかもしれませんね。色が飛ぶじゃないですか。赤系だったはずなのに、黄色になっちゃったとか。あれは実は元々赤のインクに見えて黄色のインクも入っていたりするわけですよ。で、先に赤が飛びますということでああなっちゃうわけですよね。

でも、色調整ができるようにしてありますというのは、色のものを見せるに当たっては、ある面当たり前といいますか…。私はビデオの商品企画も担当したことがあるのですが、色温度が調整できないというのは元々おかしいので、それはできないといけないよねというところはあります。ですけど、Palmデバイスでそれをまた入れ込むというのは結構大変でして、ある面わかりやすくシンプルな形でお入れしているというところはあります。
SPA ──黄色の方にスライドさせると、いわゆる赤が強くなるというか、暖色系になるんですか?反対に青い方にめいっぱいスライドさせると青みが増して白がグレーっぽくなりますね。これが本体の消費電力を押さえるという意味でなんですか?
後藤 色調整自体はバッテリーとは直接関係はありません。バッテリを持たせるという意味では、色の調整というより必要以上に輝度を上げないことがひとつのポイントになります。「明るさ調整」はデフォルトでは一番明るい設定になっていますが、お客様の中にはこれを使っているうちに、ここまで明るくなくてもいいなと思う方もおられると思います。明るさを絞っていただくと、それだけ動画の再生時間も伸びます。びっくりするぐらい伸びるかもしれません。
SPA ──インタビューには12時間と書かれていましたが?それと、視野角もすごいですね。
後藤 POWER/HOLDスイッチをスライドし続けて、従来のバックライトオフと同じ操作をすると「減光モード」になります。これは明るい部屋では暗すぎますが、暗い会議室や飛行機の中ですとか、そういったところで最適になります。この状態で本当に12時間ビデオ再生できます。自発光ですので、飛行機の中だと、明るいままでは周りに迷惑が掛かるかもしれません…(笑)

視野角については、もう私には当たり前になってしまいましたが、普通はまず最初にご覧になった方は何事だというような感じで…。とにかく有機ELは実際に見ていただかないと、カタログの印刷では伝わらないことが多いのです。
SPA ──せっかくのAVビューアーですから、AVコンテンツそのものが手軽に入手できると良いのですけど。そして、そういうコンテンツを手に入れる手段をソニーさんが用意してくれないのでしょうか…。
後藤 先ほどの話同様、ニワトリと卵の話になっちゃうんですね。ただ、コンテンツ供給が手軽になるまでクリエはやりませんというのもどうかと。例えば映画のトレーラーですとか、ちょい見せというのはお客様への宣伝効果があるので、著作権者さんはすごくやりたがるんですね。でも、全編を見せると言うことに対してはものすごく神経質なので、音楽ものとかをフル・コーラスやるとかいうのはすごく神経質になると。いつか時代がついてくるものだと僕は思いますけども。だんだんこういうものが出てきて、世界が見えてくるのかなと思います。
SPA ──今フツーに個人でこれをやろうとしますと、音楽番組などを録画してコツコツカットして変換する方法しかないですよね?
後藤 そうですね、それが一般化しますかといわれると、それに対するメーカー側の努力や音楽業界、映画業界などの努力が当然必要になってきます。こういうものは、ハイエンドでこだわりのあるお客様から順番に提案していくしかないだろうなと思っています。100人のお客様がおられたとして、大半の方は挫折しちゃうのかもしれませんが、それでもそれをやりたいというお客様にご提供したいというところもあります。
SPA ──お山のてっぺんにいる人たち向けのマシンということですか?
後藤 最初はある面それでも仕方がないというか。いろんなてっぺんのいろんな山があって、いろんなてっぺんの方がいらっしゃると思うんですけども、逆に言うと、やっぱりてっぺんの方からだんだん降りてくるんですよ、必ず…。いきなり山を崩すほどのインパクトを持ってくる商品は、まあたまにありますけれども、あんまり無いですよね。やっぱりそうやってだんだん山を崩していかないといけないという…。ですから、今までのクリエとかけ離れている部分、ポイントになっているですけれども、だからといってそれをホントに手をこまねいて山が崩れるのを待っているのはソニーではないというふうには思います。

これにクリエという名前が付いて、今までのものとあまりにも違ってショックを受けておられる方がおられるかもしれないのですが、私としてはクリエユーザーにこそ、こういう初号機のインパクトを味わってもらいたいというのもあるんです。
SPA ──なんとなく、これが初代クリエだったらなという…。AVを徹底的に強化してソニーらしいPalmデバイスをつくったらこうなりました、みたいなことを考えてしまいました。
後藤 わかります。でもそのぐらいのインパクトを与えるデバイスではあるんですよね。確かに皆さんから今言われているように、別にクリエという名前を付けないで全く新しいブランディングで、新しいチャレンジで、だけど最初は氷山のてっぺんからスタートというのは全然ありだと思います。まったくその通りだと思います。
SPA ──Tシリーズで採用された1本物のスタイラス復活の理由を教えてください。
後藤 私にとってはものすごくこだわりがあった部分でして、メカ屋(機構設計担当グループ)に思いっきり怒られました。でも、これだけ大きなボディになって、伸縮スタイラスで小型化を図りましたは無いでしょうというのがメインです。TH55にでかいスタイラスつけたら本当にでかくなるんですかというのは、本当にでかくなっちゃうんですよボディーが…。
SPA ──それだけ中身が高密度ってことですか?
後藤 そうですね。PEG-VZ90も実はメカ屋はスタイラスを伸縮にしてくれたらここがあと1mm削れるな、ぐらいのことを言ってくるんですよ。PEG-TH55のお客様ンケートで伸縮式がお客様の受けが悪いこともわかっていますので、それをわざわざこれだけ大きなモデルにつけるのはいかがなものかと。あと、このサイズの方がソニー以外からも色々な製品が出ており、そういったものもお使いいただけるということもあります。
SPA ──標準で付属するキャリングケースですが、かつて無いほどこだわりを感じます。良かったら開発意図をお聞かせください。
後藤 基本的には過去のクリエも液晶を保護するという意味でカバーなりケースをつけましょうというポリシーは元々ありました。ただ、VZ90の場合はパネルをしっかり保護するためのケースがかなり大事だよねということで、鉄板の入っている頑丈なケースで、かつ、高級感も大事で、しっかり止められるケースということで着脱しやすいコインねじを採用しました。後ろを跳ね上げるようにしたのは単にケースを付けたままでもクレードルに立てられるようにと考えたんですが、跳ね上げる機構をつけたことによって、ケースを使って自立させることができるようになりました。ベルクロで固定するとより安定します。これ、実際に新幹線の座席のテーブルのようなところに置くことを考えた際に、何もないのとは大違いなんですよ。ということで、デザイン的にも一番優れているので是非このケースは同梱して、商品性を高めましょうと。「保護」ということがベーシックなニーズとしてあるわけですけれども、それだけではなくて使い勝手を上げたいということです。材質は本革風の合皮です。今回は本体のデザイナーが一緒に全部デザインしました。逆にケースの付け様をここまで設計の初期段階からメカ屋が練り込んで作ったのはあまり無いかもしれません。
SPA ──Bluetoothを載せなかった理由を教えてください?
後藤 Bluetoothデバイスが日本にあまりないということと、Bluetoothを活かしてAVを強化するための機能を積むことができなかったということがあります。例えばBluetoothワイヤレスヘッドホンがつけられますとか、リモコンができますというようなことができればよかったのですが。
SPA ──CFの通信カードが1機種のみですが、その理由は?
後藤 ハンドヘルドエンジン搭載のクリエで、CF通信カードに対応したのは実はPEG-VZ90が初めてなんですよ。PEG-NX80VなどのXscale搭載モデルではやっているんですけども、ハンドヘルドエンジンはプラットフォームが違うものなんですよ。もしも古いファイルを過去機種から持ってきたら動くんですか?と言う方もいらっしゃると思うので言っておきたいんですが、それはできないです。なぜかというと、タイミングですとかそういったものが全部違ってきてしまうので…。1機種ずつ新たに検証していくというのが非常に難しくて、一番ポピュラーと思われたAH-S405Cのみ対応しました。キャリア側やカード作っているメーカーがお出しになるという可能性はあるので、あとは経過次第と言うところではないでしょうか。
SPA ──VZ90をフルに楽しもうと思ったら、どういう環境があるのが理想というか幸せですか?
後藤 変な追い風というと語弊がありますが、コンパクトフラッシュがかなり安い値段で入手可能です。2GBや1GBのレベルだと、もうハードドライブよりもむしろメモリメディアの方が便利に使えて省エネで、みたいなことになりますので、むしろその程度のレベルで考えたときには、正しい選択だったなと実は思っているんです。あとハードディスクはクラッシュしやすいですとか、その辺のことまで一緒に考えますと、むしろシリコンメディアにしておいたのは正しかったと思っています。
SPA ──有機ELじゃなく、フツーの液晶バージョンにした場合は考えられなかったのでしょうか?
後藤 できなくはないですね。ただ、一つ言えるのは大事な個性が失われて、ますますHMP-A1にPalmがついたようなものだねっていうようなことになっちゃうのかなと思います。有機ELが無かったらさすがにクリエでここまではやらないと思います。有機ELがあったから逆に実現できた商品であるのは間違いないです。液晶になって消費電力が下がったからその分ハードディスクも余裕でまわせるようになりますよねって、その通りなんですけど、その結果として出てくるモノは一般的なデバイスに落ちていくので、こういう形にはならないですね。
SPA ──価格も飛び抜けていて色々揃えると10万コースですが、思い出してみると昔の電子手帳は10万超えるものはざらでしたね?
後藤 背景のことを知っているので、ある面リーズナブルだというのもわかっていますけれども、普通のマーケットの想定からみたら高いと思っています。一方でノートパソコンにしても20万、30万するものを買うお客様もおられるわけですし、値段の高い安いというのはお客様にどのくらいのベネフィットを感じていただけるかと言うことだと思っています。VZ90に対して、お客様にどれぐらいのベネフィットを見いだしていただけるかというのが、大事なことだと思っています。

単純に投資家からみて有機ELって本当に売れるかどうかといった見方ではなくて、有機ELがもたらすライフスタイルに注目していただきたいんですね。たとえばPEG-NZ90に搭載したFelicaリーダーのように、クリエにはある種の先物買いがたくさんあります。それをお客様の方がみて、感じて、もちろんポジティブにもネガティブにもご意見いただいて、それで育ててきていただいたのがクリエであり、そういったところで揉まれた体験を、ソニーとして次の商品に取り込んでいくことが重要だと考えています。
SPA ──ありがとうございました。

2004-10-25 初出: 2004-10-26 14:55 誤字修正 < hit>
All rights reserved. Copyright (C)2000-2004, SPA/CLIE User Club!